マンションで上階や隣室などからの生活音に悩まされている場合、管理会社経由で苦情を伝えて効果がなかったとしても、諦めるはちょっと待って。いくつか対処方法がありますので、引っ越しはあくまで最終手段として、まずは騒音対策を試してみましょう。
部屋の防音対策をする
近隣の部屋からの生活音が聞こえやすいと感じる場合、壁や床が薄いなど、マンションの構造的な問題に起因していることがあります。
対策としては、分譲マンションであれば、壁に吸音材を埋め込んだり、窓を二重ガラスの防音窓にするなどの防音工事をすることが考えられます。防音窓への交換には数十万円程度、本格的な防音工事には100万円単位の費用がかかります。
賃貸マンションでは賃借人が勝手に防音工事をすることはできませんが、窓に遮音カーテンを取り付けることで、外からの騒音はある程度カットできます。
リフォームなどの工事による騒音については、どの住戸でもいずれ工事が必要となる点ではお互い様なので、管理規約を守って平日の日中に工事をしている限りは我慢するしかありません。
昼間在宅している人にとっては大変でしょうが、ノイズキャンセリングヘッドフォンや耳栓を使って、ある程度騒音を軽減することはできるので、試してみましょう。
騒音を出している人に苦情を伝える
上階や隣室など特定の住戸が騒音の発生源であることがはっきりしている場合には、騒音を発生させている人に苦情を伝えて改善策をとってもらうことも考えられます。自分では周囲に騒音をまき散らしていることに気づいていない場合もあるので、善処してもらえる可能性があります。
他の住人も騒音に迷惑しているようであれば、一緒に伝えましょう。複数の住戸からの苦情があれば説得力が増すでしょう。
苦情は直接伝えずに、管理会社や大家を通しましょう
苦情を伝える場合に注意しておきたいのは、相手方に直接言いに行くのではなく、管理会社や大家を通して伝えるということです。
騒音発生源が顔見知りの人であればまだしも、分譲であれ賃貸であれ、マンションでは違うフロアにはどんな人が住んでいるか知らない場合が多いことでしょう。素性のわからない人にいきなり直接苦情を言うのは危険です。
昼夜かまわず騒音を立て続けるような人は、日ごろ過剰なストレスを抱え込んでいたり、精神を病んでいたりする場合もあります。そんな人に面と向かって苦情を伝えると、お互い感情的になって思わぬトラブルに発展することもあるので、気をつけてください。
音の発生源をきんと確認しましょう
また、騒音を出しているのが本当にその人なのかも十分確認しましょう。関係のない第三者に苦情を言ってしまっては、大変です。どの方向から音が響いてくるかは建物の構造によっても変わってくるため、自分の居室から騒音の発生源を特定するのは難しい場合もあります。発生源は、慎重に特定するようにしてください。
集合住宅で生活している限り、他の部屋からある程度の生活音が聞こえてくることは避けられません。ひょっとしたら自分自身が物音に過敏になっているのかもしれない、という点もよく考えて行動しましょう。
悪質な場合は警察に通報も
真夜中に大音量で音楽を鳴らしたり大声で騒いだり、あるいは隣人への嫌がらせで故意に騒音を出したりといった悪質なケースについては、警察に対処してもらうのもひとつの方法です。
取り締まりの法的根拠としては、軽犯罪法や各都道府県の迷惑防止条例などが考えられます。軽犯罪法では、「公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者」は「拘留または科料に処する」との定めがあります。警察官が注意したにもかかわらず、言うことを聞かずに騒音を出し続ければ、刑罰に処せられる場合もあるということです。
騒音はたびたび事件にも発展
住民同士の騒音トラブルをめぐる有名な事件に、奈良県で起きた「騒音おばさん」事件があります。これは集合住宅ではなく戸建て住宅のケースですが、女性が数年間にわたりラジカセで大音量の音楽を流し続け、近隣の住民に睡眠障害を負わせたとして傷害罪で逮捕、起訴され、最高裁で懲役1年8月の実刑判決が2007年に確定しています。この事件は騒音トラブルに傷害罪が適用された点でも注目されました。
訴訟を起こす
「騒音おばさん」のように刑事事件に発展するほど悪質な例でなくても、マンションでの生活音をめぐる訴訟は、各地の裁判所でときおり起こされています。時間も費用も手間もかかりますが、分譲マンションで気軽に引っ越せないような場合には、加害者を相手取って騒音差し止めや損害賠償請求の民事訴訟を起こすことも一考の余地があります。
請求の根拠となる法律は民法709条。故意または過失により他人の権利を侵害した者は損害賠償責任を負うという、いわゆる不法行為責任を定めた条文です。これを根拠に、近隣住民からの騒音により生活が乱されたり不眠症になったりしていれば、騒音の差し止め請求や損害賠償請求の訴えを起こすことができます。
「ある程度の生活音は我慢すべき」が裁判所の見解
ただし、騒音のすべてが不法行為になるわけではありません。とくに集合住宅の場合には、どうしてもある程度の生活音は避けられないものです。また、どの程度の生活音を迷惑と感じるかも人それぞれです。そこで裁判所では、騒音による被害が、通常の人であれば我慢すべき限度(受忍限度)を超えた場合にのみ、加害者は不法行為責任を負うとの考え方を取っています。
そして、この受忍限度については、音量が何デジベル以下といったような一律の基準があるわけではありません。裁判所では、騒音を発生させる行為の性質、内容、程度や、加害者が騒音を注意されてから改善措置を講じたかどうか、被害者にどのような被害が出ているか、といった諸事情を総合的に判断して、騒音が受忍限度内であるかどうかを判断しています。
実際の裁判例でも、個別の事情によって、騒音を発生させた側の不法行為責任が認められた例も認められなかった例もあります。
騒音によって睡眠障害などの健康被害が出ているような場合には、不法行為責任は認められやすいようです。そうした症状があれば、医師の診断書を証拠として提出すれば、裁判を有利に進められるでしょう。
裁判をするなら証拠集めは必須
訴訟では、訴えを起こした側が騒音の実態とそれによる被害を具体的に立証しなくてはなりません。証拠として騒音を録音したり、管理事務所や家主、他の住人などに証言してもらったり、専門の業者に依頼して音量を測定してもらったりすることも必要になるでしょう。
騒音対策の最終手段は「引っ越し」
いろいろ対策を講じても騒音トラブルが解決できなかった場合、最終手段は「引っ越し」です。
持ち家の戸建てや分譲マンションの場合、一生の財産として購入した住まいを引き払うのはなかなか勇気の要ることではあります。しかし騒音を発生させている側もなかなか引っ越さないであろうことを考えると、これから一生騒音に耐え続ける覚悟があるかどうかの判断となります。
賃貸マンションやアパートの場合、分譲に比べてそもそも壁が薄いなど構造的に防音性が低い場合もあります。引っ越すには敷金、礼金、仲介手数料に引越し料金と、数十万円単位のお金がかかりますが、一種の授業料と考え、次こそは防音性の高い、騒音トラブルの少なそうな物件を慎重に選びましょう。