電力小売り自由化により、各家庭ではさまざまな電力会社の中から自分に合ったお得なプランを選べるようになりましたが、一部の大型マンションでは、建物全体で「高圧一括受電契約」をしているために、各居住者が電力会社を選べない場合があります。
電力契約には事業者向けの「高圧」「特別高圧」と家庭向けの「低圧」がある
電力の契約形態には大きく分けて、一般家庭など比較的電力の消費量が少ない人向けの「低圧」の契約と、大規模なビルや工場のように大量の電力を使う事業者向けの「高圧」「特別高圧」の契約があります。「低圧」に比べて「高圧」「特別高圧」の方が電力料金の単価が安くなっています。
大型マンションの場合、各住戸の専有部分それぞれの消費電力量はそれほど多くないものの、1棟全体でみると、共用部のエレベーターや照明なども含め、かなりの電力を消費しています。
そこで、大型マンションの一部には、電力会社と「高圧一括受電契約」を結んでいるところがあります。
これにより、共用部の電気料金は単価の安い「高圧」の料金のため、低コストで抑えることができるわけです。
高圧一括受電契約の場合、個人での契約はできません
高圧一括受電契約では、マンション1棟全体が電力会社との契約主体となるので、各住戸が個別に契約を結ぶことができません。
各住戸への電力供給は電力会社が行うのではなく、高圧で一括して電力供給を受けたマンションの管理組合などが、自ら設置した変圧設備で電気を低圧に変換して行います。
各住戸の電気メーターの検針や電気料金の算出、請求なども、電力会社ではなくマンション側で行うことになります。これらの作業については代行して行うサービス業者もあります。
「高圧一括受電」は大規模マンションが中心
「自分のマンションの契約がどうなっているのかわからない」
という方が多いのではないでしょうか?
お住まいのマンションが高圧一括受電契約になっているかどうかを知るには、管理事務所や家主に問い合わせるのが一番確実です。
賃貸マンションであれば、賃貸借契約書に記載されている可能性もあります。また、高圧一括受電であれば、マンション内に電気を低圧に変換するための変圧器が備えられています。
これから入居しようとするマンションが高圧一括受電契約になっている場合は、物件情報にその旨が記載されているはずです。
高圧一括受電契約をしているのはタワーマンションなどの大規模マンションであることが多く、小規模マンションでの契約は少ないようです。
高圧一括受電契約だと、各住戸に電力を供給するための電圧変換設備の設置や各住戸のメーターの検診などもマンション側が行わなくてはならないため、小規模のマンションでは見合わないというのが実情ではないでしょうか。
居住者にとっての「高圧一括受電」のメリットとデメリット
メリット
マンションの居住者にとっては、マンションが「高圧一括受電」の契約を結んでいれば、電力会社から供給される電力の単価が「低圧」の契約に比べて割安になるため、共用部のエレベーターや照明設備などの電気代が抑えられて管理費や共益費が安くなります。
また、専有部についても電気代が割安になる可能性がありますが、変圧設備の維持・管理などのコストもかかるため、低圧の個別契約に比べて必ず安くなるとまでは言い切れません。
デメリット
メリットがある反面、マンション全体で高圧一括受電契約を結んでしまうと、各居住者が契約する電力会社を選べなくなるのが、デメリットです。
電力小売り自由化に伴って参入した事業者はさまざま。
東京地区であれば東京電力に比べて割安の料金を打ち出しているところもあれば、東京ガスのように電気とガスをセット契約することで割引する事業者もあり、利用者の電力利用状況に合わせてさまざまなプランが用意されています。
また、単に料金面だけでなく、電力事業者の原発依存度や温暖化対策への姿勢などを重視して契約先を選びたい消費者もいることでしょう。そうした選択の余地がなくなってしまうのです。
高圧一括受電契約のマンションとそうでないマンションのどちらが得であるかは、一概には言えません。居住者が電力会社に何を求めるかによっても違ってくるので、何を重視したいのか考えてみてください。
電力自由化でマンションの「高圧一括受電」が問題化
かつては、各家庭で契約できる電力会社は、各地域ごとに決まった旧一般電気事業者(北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、四国電力、中国電力、九州電力、沖縄電力の10社)に限られていたため、高圧一括受電契約の是非が問題になることはあまりありませんでした。
しかし、2016年4月から電力小売りが自由化され、さまざまな電力会社の中から選んで契約できるようになると、高圧一括受電契約はマンションの各居住者にとっては電力会社を選べない点でデメリットとなってしまいます。実際に、同契約をめぐる居住者と管理組合のトラブルが発生しています。
高圧一括受電をめぐって訴訟となった事例も
2014年、札幌市内にある総戸数544戸のマンションの管理組合は、マンション全体で北海道電力と高圧一括受電契約を結ぶことと、それに伴い居住者全員に対し、個別に同社と結んでいた電力供給契約を解約するよう義務づけることを決議しました。
しかし、一部の住人が個別契約の解約を拒否したため、マンション全体としての高圧一括受電契約は結べませんでした。このため、管理組合はこれらの住人を相手取って損害賠償を求める訴えを起こしました。
この訴訟で最高裁は2019年3月5日、「たとえ管理組合総会の決議があったとしても、住人には北海道電力との個別契約を解約する義務はない」として、管理組合敗訴の判決を言い渡しています。
マンションの管理組合が電力会社と高圧一括受電契約を結ぶためには、単に総会で多数決により決議しただけではだめで、居住者全員が同意しなくてはならないことが、この判例で明確になりました。
今後は、既存のマンションが高圧一括受電契約に切り替えるのはかなり難しくなりそうです。