「住民税に地域差がある」が嘘か本当か調べてみた

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引越し後の住民税について

たとえば「横浜は住民税が高い」といった話をよく耳にしますが、住んでいる自治体によって、住民税に高い安いの差は本当にあるのでしょうか。気になったので調べてみました。

住民税とは?

まず、住民税の仕組みについて確認しておきましょう。住民税は、市町村民税(東京23区の場合は特別区民税)と都道府県民税を合わせた総称で、所得に対してかけられる税金です。また、同じように所得にかかる税金でも、所得税が国税であるのに対し、住民税は地方税です。

住民税は前年1年間の所得から税額が計算され、その年の1月1日時点で住んでいた所の自治体から課税されます。

全員同額の「均等割」と所得で変わる「所得割」

住民税は、住民や家屋敷を持っている人が全員同じ額を負担する定額の「均等割」と、前年の所得に応じて課税される「所得割」などで構成されています。

それ以外に、預貯金の利子に課税される「利子割」、株の配当に課税される「配当割」、株式譲渡などに課される「株式等譲渡所得割」といったものもあります。

住民税は国の定めた基準を元に定められる

では、住民税の税率はどのように決められるのでしょうか。

地方税法が定めるさまざまな地方税には、地方自治体に他の税率を定めることを許さない「一定税率」のものと、基準の税率を定めた上で他の税率を定めることも認める「標準税率」のもの、基準税率を定めず地方自治体に税率の設定をゆだねている「任意税率」のものとがあります。また、「標準税率」のものには、税率を一定範囲内に制限する「制限税率」のあるものとないものがあります。

個人の所得にかけられる住民税(都道府県民税、市町村民税)の「均等割」と「所得割」については「標準税率」となっており、制限税率の適用はありません。

つまり、 国が一定の税率を基準として定めてはいるものの、各地方自治体が独自に税率を設定することもできるわけです。 

なお、 都道府県民税の「利子割」「配当割」「株式等譲渡所得割」については「一定税率」となっており、自治体が勝手に税率を変えることはできません。 

政令指定都市では税率が変わる?

住民税の標準税率は、個人の場合、所得割では市町村民税や特別区民税が6%、都道府県民税が4%、合計10%となっています。

ただし、横浜市や大阪市、名古屋市、京都市などの政令指定都市に住んでいる場合は、税率は市民税が8%、道府県民税が2%となります。これは政令指定都市では都道府県の行う事務の一部が委譲され、行政事務の範囲が広くなっているためです。

合計の税率は同じ。変わるのは配分のみ

つまり役割分担の比率に応じて政令指定都市と都道府県の住民税の分け前が変わっているだけで、両方を合わせた税率が10%であることには変わりありません。つまり標準税率でみる限り、横浜のような政令指定都市に住んでいるからといって、住民税の負担が重くなるわけではないのです。

均等割は、市町村民税・特別区民税が年額3000円、都道府県民税が1000円(ただし、2014〜23年度については市町村民税・特別区民税3500円、都道府県民税1500円)となっています。

各自治体が標準税率に従っている限りは、住民税の税率は同じになります。そして、実際には全国のほとんどの自治体が標準税率を採用しています。

自治体によって税金に多少の違いはある場合も

ただ、一部の自治体では、住民税について「標準税率」とは異なる税率を独自に条例で定めています。

他の自治体よりも安い名古屋市

住民税を他の自治体より安くしているのが名古屋市です。同市では2012年度から、地域経済活性化策の一環として市民税を減税しており、均等割は政令指定都市の標準税率より200円安い3300円、所得割は0.3ポイント低い7.7%となっています。

他の自治体よりも高い北海道・夕張市

逆に、財政難のため住民税を上乗せする自治体もごくまれにあります。財政再建団体である北海道夕張市では、2016年度まで超過税率として市民税の均等割を500円加算していました。

災害などの臨時対策で変わることも

こうした例に加え、東日本大震災後、地方税に関する臨時特例法により、2014〜23年度の間、防災施策の財源確保のため自治体が税率を上乗せできるようになりました。

これを受けて、たとえば横浜市では個人市民税の均等割が900円増税され、年額4400円となりました。神奈川県の個人県民税でも均等割が300円引き上げられて1800円、所得割の税率も0.025%上乗せされています。

このように、住民税の税率は一部の自治体では標準税率と異なっているところもあります。とはいえ、年額で数百円から数千円程度の差でしかなく、家賃や物価の地域差に比べれば微々たるものです。引越し先を選ぶにあたって、自治体の住民税が高いか安いかは、あまり気にする必要はないでしょう。

自治体により大きな差があるのは「健康保険料」

ただ、国民健康保険の保険料は自治体によって大きく違っています。これは国民健康保険が各市区町村ごとに運営されており、それぞれの住民の所得や高齢化率、財政事情などによって保険料率も変わってくるためです。国保加入者はこの点には注意する必要がありそうです。

都内でも千代田区と福生市では倍近く違う!

厚生労働省の集計によると、2018年度の1人あたり保険料は、同じ東京都内でも、最も高い千代田区が15万5459円、2位が港区の14万4360円、3位が渋谷区の14万4021円など、23区内はすべて10万円以上なのに対し、多摩地区になると最も高い小金井市でも9万9970円、福生市では7万3815円と千代田区の半額以下になります。

必ずしも都会や平均所得の高い自治体ほど高いというわけではなく、たとえば北海道の由仁町は16万5227円、浦臼町は16万909円と、東京都千代田区より高い水準です。

安い所では長野県大鹿村の3万9344円、沖縄県伊平屋村の4万1627円、鹿児島県伊仙町の4万4436円など。最も高い所は最も安い所の4倍以上になっています。

引っ越そうと思っている地域の保険料については、引っ越し前に調べてみてもいいかもしれませんね。

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