引っ越すのもアリ? 通勤時間の無駄を「職住近接」で解消するという選択

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職住近接と通勤事情

職場の近くに引っ越し、通勤時間を減らして自分の時間を確保する「職住近接」という考え方があります。とはいえ、職場が都心部の場合、郊外よりは家賃が高いのが実情。通勤時間短縮と家賃とのバランスなど、今回は「職住近接」と東京の通勤事情について解説します。

職住近接のメリットとデメリット

東京、大阪、名古屋の三大都市圏の中でも、通勤時間の長さや通勤の大変さが問題になるのは東京です。大阪では混雑率も東京とは雲泥の差で、通勤時間帯でも電車の座席に座れることは珍しくありません。

どこの都市でも中心部に近づくほど、そして駅から近いほど家賃は高くなるのが一般的ですが、そもそも東京圏では家賃相場が地方都市とは比較にならないほど高くなっています。

そんな中で、あえて高額な家賃を負担して「職住近接」を追求するメリットはあるのでしょうか。

都心に住むことのメリット

筆者の場合は、かつては東京郊外の国立市から都心部まで片道1時間半かけて通勤していました。関西の支社から東京に戻るときに、通勤ラッシュが嫌で都心に近い文京区に居を定め、現在に至っています。都心近くに住んでみると、通勤時間の短さ以外にも、以下のような利点があることが分かってきました。

(1)交通リスクの少なさ

郊外では多くの鉄道が都心から放射状に延びており、住民は単一の鉄道路線に依存しているため、利用する路線が事故などで止まってしまうと、それだけで足止めされてしまいます。これに対し、都心部では複数の地下鉄などが縦横に走っているので、一つの路線がストップしても別の路線を使って目的地までたどり着けます。

(2)緑の多さと静けさ

これは一口に都心部といっても地域ごとの違いはあるでしょうが、東京の都心部には、災害対策の意味もあって、宅地開発の進んだ郊外と比べても多くの公園や緑地が確保されています。また、週末は、多くの買い物客でごった返す銀座、新宿、池袋といった繁華街を除けば、都心部は郊外と比べて道路が渋滞することも少なく、むしろ閑散としています。

(3)災害時の安心感

2011年の東日本大震災の時は、鉄道が止まって自宅に帰れない「帰宅難民」が数多く発生しました。勤務先から10キロ圏内に住んでいれば、歩いて帰宅しようと思えばできない距離ではないので、いざというときの安心感があります。震災後に首都圏で計画停電が実施されたときも、東京23区のうち21区は多くの重要施設が存在していることから、停電の対象から除外されました。

都心に住むことのデメリット

一方で、都心に住むことには、以下のようなデメリットもあります。

(1)家賃・不動産価格の高さ

第一は何といっても家賃や不動産購入価格の高さです。ただ、都心部の各自治体では子育て世帯の定住促進のため、住宅補助を実施しています。

たとえば新宿区では、子育てファミリーに対して家賃を月額3万円、最長5年間補助する制度や、区外からの転入時には引越し代や賃貸住宅の礼金・仲介手数料の一部を補助する制度があります。

こうした制度を利用することで、ある程度は家賃負担を抑えることができます。もっともこれらの制度は希望者も多いので、必ずしも全員が利用できるわけではありません。

(2)買い物が意外に不便

東京の都心部では地元商店街の力が強いせいか、郊外のような大型スーパーやショッピングセンターはほとんどありません。日用品の買い物に使えるのは、品揃えの悪い小規模スーパーか高級食料品店、地元商店街ぐらいです。結局、まとまった買い物をしようと思えば、電車で繁華街まで出るか、車で郊外の大型ショッピングセンターまで行くことになります。

通勤地獄を緩和させる試みの効果も

一方で、郊外からの長距離通勤も、「通勤地獄」と呼ばれた、1970年代や80年代と比べると、緩和されてきています。 国土交通省発表の通勤通学時間帯の鉄道の混雑率は、当時は200%を超えていました。平成28年に行われた交通政策審議会で、「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」が話し合われ、ピーク時の個別路線の混雑率180%以下を目指すとされるなど、試みが進んでいます。

かつてはJR山手線には、通勤ラッシュ時になるとすべての座席が収納されて使用できなくなる家畜輸送車のような車両も使われていましたが、混在率の緩和に伴い、現在では廃止されています。

私鉄各社の全席や車両限定の座席指定のサービス

こうした混雑の緩和は、新路線の開通などで輸送力が強化されたり、時差出勤が次第に浸透してきたことに加え、都心と郊外を結ぶ鉄道の沿線人口も、ごく一部を除いてピークを過ぎ、むしろ減りつつあることによるものです。こうした状況を見据えて、一部の私鉄では近年、全席座席指定の通勤電車を走らせたりもしています。

職場に近くなくても、こういったサービスが利用しやすい駅に引っ越すことで、通勤の苦痛を緩和させるという方法も選択肢のひとつです。

●小田急電鉄( ホームウェイ/メトロホームウェイ )
18時以降の帰宅時間帯に運行する座席指定の特急とマンスカー。新宿発の「ホームウェイ」と、千代田線直通を利用した大手町や霞が関からの通勤が可能となる「メトロフォームウェイ」があります。
●京急電鉄(モーニング・ウィング/ウィング)
朝の通勤時間に三浦海岸、横須賀中央、金沢文庫、上大岡駅から、品川・泉岳寺までノンストップで運行する「モーニング・ウィング」と、帰宅時間の夕方・夜に品川から上大岡までノンストップで、それより先は快速特急停車駅に停まる「ウィング」があります。
● 京阪電気鉄道 (プレミアムカー)
大阪-京都間を結ぶ座席指定の特別車両「プレミアムカー」あり。通常料金に加えて400円・500円プラスで乗車可能。
● 西武鉄道 (拝島ライナー/ S-TRAIN )
西武新宿から拝島間の「拝島ライナー」と、所沢-豊洲間で、有楽町線との直通で利用できる「S-TRAIN」 が運行。どちらも全席指定。
● 東急電鉄 (Qシート/ S-TRAIN)
「Qシート」 は、東急大井町線で、平日の夜に大井町発・長津田行きの3号車が、座席指定の有料車両になるもの。「S-TRAIN」は、元町中華街と、西武秩父を結ぶ全席指定の直通列車です。

都心部の通勤時間帯の混雑具合

国土交通省が2018年7月発表した集計によると、東京圏の鉄道主要区間のラッシュ時における平均混雑率は、1975年には221%だったのが、その後急激に低下して2003年には171%となり、以後も徐々に低下を続け、2017年には163%にまで緩和されています。

混雑率とは、100%が定員乗車の状態。150%だと新聞を広げて楽に読める状態。180%は折り畳むなど無理をすれば新聞を読める状態。200%だと体が触れ合い、相当圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読める程度。250%になると、電車が揺れるたびに体が斜めになっても身動きができず、手も動かせない状態とされています。

ちなみに2017年の名古屋圏の平均混雑率は131%、大阪圏では125%となっています。

こうした混雑率緩和の最大の要因となったのが、輸送力の増強です。輸送力は1975年を100とすると、2003年には164にまで上昇、その後ほぼ横ばいを続け、2017年は166となっています。

●主要区間の平均混雑率

東京圏163%
大 阪 圏 125%
名古屋圏131%

混雑率180%を超える路線もまだ多数

とはいえ、ラッシュ時の乗客数に輸送力増強が追いついていない路線もまだあります。東京圏の混雑率ワースト3は、東京メトロ東西線(199%)、JR総武緩行線(197%)、JR横須賀線(196%)の順。調査対象となった31路線のうち、目標混雑率とされる180%を上回っているのは11路線です。

結局、郊外に住む場合は、どの鉄道の沿線に住むかが、通勤ストレスを軽減する上で重要になってきます。

●目標混雑率180%を超えている路線

東京地下鉄東西線199%
JR東日本総武緩行線197%
JR東日本横須賀線196%
JR東日本南武線189%
JR東日本東海道線187%
東京都日暮里舎人ライナー187%
JR東日本京浜東北線186%
JR東日本埼京線185%
東急田園都市線185%
JR東日本中央快速線184%
JR東日本総武快速線181%

出典:東京圏における主要区間の混雑率(国土交通省/2017年)

引っ越してみる? 「職住近接」ならタワーマンションも選択肢に

東京圏では近年、職住近接の「都心回帰」傾向が進んでおり、都心部の家賃相場は高止まりしています。逆に、郊外のベッドタウンの中には人気がなくなり、割安感が出ているところもあります。

これらの点も踏まえて、勤務先に近く利便性も高い都心に住むのか、間取りの広い家に住める郊外を選択するのか、慎重に検討するようにしましょう。住宅費の適正額は月収の3分の1程度とよく言われます。家賃と収入とのバランスを考えて、生活費を圧迫しないようにすることも大事です。

「職住近接」を追求するなら、最近増えてきたタワーマンションも選択肢となります。建築制限の緩い駅前の中心市街地に建っているところが多く、通勤や買い物に便利な上、セキュリティーもしっかりしています。

まずは、現在自分にとって通勤がどれくらいの負担になっているのか、その解消をする方法として、どんな方法があるのか考えてみましょう。調査のうえ、「職住隣接が良さそう」だと判明したら、思い切って引っ越してみてもいいかもしれませんね。

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