日本は、国内総人口の約30%近くが65歳以上という高齢化社会です。公共施設のバリアフリー化や、高齢者向けサービスも増えていますが、まだまだ改善の余地がある状態です。そんななか、高齢者が引越しをするとなった場合、様々な困難があるのは想像に難くないでしょう。引越しそのものは、引越し業者におまかせできたとしても、役所で行う手続きは、免除してはもらえません。
病気というほどではなくても、年齢を重ねて足腰が弱っていれば、手続きのために役所に出向くのも一苦労です。体力に自信があっても、駅が遠い、バスの本数が少ないなどで、役所に行くのは一日がかりということもあるでしょう。
だからこそ、手続きの抜け漏れや、必要書類忘れなどで、二度、三度と役所に出向く必要がないように、必要な手続きは事前に確認しておきましょう。また、本人が出向くのがむずかしい場合には、代理人に手続きを依頼する方法もありますので、あわせて見ていきましょう。
高齢者の引越し手続きタイプ① 代理人の場合(委任状が必要)
引越しの手続きの申請は、原則「本人、または世帯主」、「本人と同一世帯員」も可能とされていることがほとんどですが、代理人が申請することもできます。
代理人が申請する場合、手続きを委任された証明や本人確認のための書類が必要となります。市区町村によって違いがありますので、事前確認必須ですが、
- 委任状
- 身分証明書(運転免許証、健康保険証など)
- (自治体によっては)代理人の印鑑
が最低限必要になります。
委任状は各市町村の役所や自治体のWebサイトからダウンロードできることが多いようです。引越しをする本人の自筆が条件になっていることや、署名や押印が必要なこともありますので、事前に確認しておきましょう。本人の自筆が困難な場合は、各自治体の窓口に相談してください。
また、転居する世帯全員分の下記いずれかも提示する必要があります。
- マイナンバーカード(交付申請により取得済みの場合)
- 通知カード (マイナンバーカード申請をしていない場合)
なお、代理人申請であっても、マイナンバーカードで手続きをする場合、4桁の暗証番号が必要となります。暗証番号がわからない場合は、即日手続きができずに、確認書類が住民登録住所に送付されるので、必要事項を記入のうえ、後日代理人が改めて持参する必要があるなど、時間がかかりますのでご注意ください。
引越し先によって他にも申請や持参するものが異なってくるので、くわしく見ていきます。
高齢者の引越し手続きタイプ② 同じ市区町村へ引越しする場合
転居届
同じ市区町村内での引っ越しの場合は、「転居届(住所変更)の申請」を行います。なお他の市区町村への引越しの場合と異なり、引越し前には申請できません。転居後14日以内に申請を行ってください。
[手続きに必要なもの]- 窓口で届け出される方の本人確認書類(運転免許証、パスポート等)
- 世帯全員分のマイナンバーカード、または通知カード
あわせて手続きが必要なもの
下記についても住所変更などの手続きが必要になるため、交付申請している、または該当する場合は一緒に持参しましょう。
- 住民基本台帳カード (※)
- 国民健康保険証
- 国民健康保険高齢受給者証
- 介護保険被保険者証または資格証
- その他の医療証明書(障害者医療、こども医療費受給者証)
- 印鑑登録証
住所変更にあたり、発行まで時間が掛かる場合もありますので注意してください。
※住民基本台帳カードは、マイナンバーカードの交付開始により平成27年10月で発行終了となっています。ただし有効期限内であれば、マイナンバーを取得するまで利用可能です(総務省「住基カードをお持ちの方へ)
高齢者の引越し手続きタイプ③ 他の市区町村や県外へ引越しする場合
転出元での手続き
転出届の申請
同一市内ではなく、他の市区町村や県外に引越しする場合は、転出元で「転出届」を申請する必要があります。申請期間は、引越し日の14日前くらいから引越し当日までとしている市区町村が多く、現在の住所がある引越し元の市区町村の役所に提出の必要があります。
引越し後に届け出をする場合の受付期間をあらかじめ明記している市区町村もありますが、万が一引越し前の届け出を忘れてしまった場合は、役所に連絡のうえ手続き方法を相談するようにしてください。
なお、転出届には新しい住所がわかる書類が必要となりますので、持参するのを忘れないようにしましょう。この時、通常ですと「転出証明書」が交付されますが、マイナンバーカードまたは住民基本台帳カードを持っていると「転入届の特例」の適用により交付されません。
カードの利用により転出元での申請情報がネットワークを通じて登録されるため、転入先でカードを使用して暗証番号を入力することにより証明書なしで手続きを行えるシステムです。暗証番号を忘れてしまった場合、転出先での手続きが行えませんのでこの時点で再設定しておくようにしましょう。
役所で行うその他の重要な手続き
また、うっかり忘れないようにしたいのが「国民健康保険」や「介護保険」「要介護認定」関連の手続きです。別途申請が必要となりますが、「住所変更」ではなく「資格喪失手続き」という扱いになります。
保険証は返却し、引越し先で新たに加入の手続きをします。申請の際に証明書が発行される場合もあります。転入手続きに必要となりますので保管しておきましょう。
- 国民健康保険証
- 介護保険被保険者証(※受給資格証が発行され、転入先での申請に必要になるため保管しておきます)
- その他の医療証明書 (後期高齢者医療、障害者医療、 こども医療費受給者証 )
- 印鑑登録証
また、場合によっては保険料の還付があるため、口座情報も持参しておくとよいでしょう。
印鑑登録についても廃止・登録証の返却の必要があります。市区町村によっては自動的に廃止になる場合もありますが、念のために持参するか事前に確認しておきましょう。
転入先での手続き
転入届
転入先では、「転入届」を申請します。期間は転入後14日以内、場所は引越し先の役所で手続きを行います。ちなみに、期限内に申請を行わないと「住所不定」扱いになり、罰則が課せられる場合もありますのでご注意ください。
「転出元での手続き」で記載した通り、マイナンバーカードまたは住民基本台帳カードを持っている場合は「転入届の特例」により暗証番号の入力で手続きが行えます。また、カードの継続利用を希望する場合にはこの時点で申請を行いましょう。
マイナンバーカードや住民基本台帳カードでの手続きをしなかった方は、転出届の申請の際に交付される「転出証明書」を提出します。
役所で行う他の各種手続き
その他にも、各種申請手続きを行いましょう。転出元の手続きで資格喪失の際に証明書などが発行された場合は一緒に持参します。保険料の納付について、口座振替を利用する場合は預貯金通帳と銀行印が必要となりますので、こちらも忘れないようにしましょう。また、印鑑登録をする場合は、登録したい印鑑の持参も必要です。
- 国民健康保険証
- 介護保険被保険者証(※転出届の際に受け取った受給資格証を提出)
- その他の医療証明書 ( 後期高齢者医療、障害者医療、 こども医療費受給者証 )
- その他の医療証明書 (後期高齢者医療、障害者医療、 こども医療費受給者証 )
- 印鑑登録(登録印持参)
高齢者の引越し手続きタイプ④ 老人ホームなどの施設へ引越しする場合
高齢者の引越しの際に忘れてはならないのが、要介護、要支援に関する手続きです。要介護や要支援認定を受けている場合、訪問介護や老人ホームのでベッドや歩行器使用料に介護保険を利用したり、サービスを受けることができます。
その際、注意しなければならないのが、介護保険の保険の被保険者が市区町村だということ。そのため、介護認定を引越し先の市区町村で引き継ぐ場合には、手続きが必要です。
引越しを機に在宅介護をする場合
在宅介護を行う場合には、転出元で発行された「受給資格証明書」を、転入元に14日以内に提出することで、介護認定を引き継ぐことが可能です。この期間を過ぎると、改めて引越し先の市区町村で介護認定を受ける必要があり、認定が下りるまでの期間、各種介護のサービスが自己負担となりますので注意してください。
老人ホームなどの施設に引っ越す場合
では、老人ホームなどの介護施設が、これまで住んでいた市区町村外であった場合、改めて介護認定が必要なのでしょうか?
老人ホームなどの入居にあっては、「住所地特例制度」というものがあります。 「住所地特例」とは、 ほかの市区町村の対象施設に入所した場合、住民票を移しても移す以前の市区町村がそのまま保険者として継続される特別処置で、 被保険者がそれまで住んでいた市区町村のままとすることで、そのままの費用負担、サービスを継続することが可能です。
これは、介護施設がある市区町村に入居者が集中することで、財政負担が偏る可能性を防ぐためのものですが、利用者にとっても、改めて介護認定を受ける必要がないのは、大きな利点です。
対象となるのは、介護保険施設や、有料老人ホーム、適合高齢者専用賃貸住宅などの「特定施設」とされるもので、地域密着型特定施設は対象外となりますので、入所先施設が対象となるのかどうか、事前に確認しましょう。
住民票を移す前と同じ料金体系が適用されますので、選ぶ施設によっては割安で利用できるなどのメリットがあります。高齢者の方が元々一人暮らしでなく、市区町村内の介護施設へ入所する場合は新住所に住民票を移すか、そのままにするかは任意となりますので、よく検討してください。
別市区町村の施設の場合は、役所に「介護保険被保険者証」を持参して住所地特例専用の用紙で申請を行いましょう。
要支援・要介護の認定を新たに申請する場合
これまで要支援・要介護の認定を受けておらず、これから申請をするという場合は、住民票登録している役所の窓口で申請する必要があります。とはいえ、申請には主治医の意見書が必要になるほか、認定までには訪問面談などが必要になります。認定までの期間も1ヵ月から場合によっては2ヵ月近くかかることもあります。認定のハードルもあがっていますので、訪問介護などをすでに利用している場合は、担当のケアマネージャーに相談してみるととよいでしょう。
また、該当する場合は下記についても申請が必要となります。
- 国民健康保険証
- 各医療保険証(後期高齢者医療、障害者医療)
役所以外での手続き
住所変更にあたり、市区町村内か外であるかに関わらず該当する場合は役所以外でも以下の届け出が必要となりますので、各窓口にて申請してください。
他にも住所登録しているもので特に郵便物を受け取っているものがないか、事前にチェックしておきましょう。
- 国民年金保険被保険者証
(※2018年3月から、マイナンバーと基礎年金番号が紐づいている場合は転居情報が連携されるため、日本年金機構への届け出は不要となりました)
- 電気・ガス・水道
- 郵便の転居・転送サービス
- NTTの固定電話
- 携帯電話
- 銀行
- クレジットカード
- パスポート
- NHK受信料
まとめ
引越しの際に必要となる手続きは、代理人でも基本的に申請が可能です。高齢の両親などに代わって手続きをすることになった際には、二度手間にならないように、どんな手続きがいつまでに必要で、どこでできるのか、代理申請には何が必要なのか、きちんと確認することが大切です。
用意するものが多くて大変かと思いますが、役所で手続きが行えるものも多いので、まとめて申請できるよう準備しておきましょう。
- 代理人手続きの場合は、委任状が必要になる
- 同じ市区町村内の引越しでも、転居届の申請が必要
- 違う市区町村への引越しの場合は転出届、転入届を申請する
- マイナンバーカードまたは住民基本台帳カードの利用で転出証明書が発行されない「転入届の特例」が適用される(暗証番号必須)
- 要介護認定を受けている場合は「認定引継ぎ手続き期間」に注意
- 対象の介護施設への引越しの場合は「住所地特例制度」を利用できる
土日に開庁している役所や郵送でできる手続きもあるので、各自治体のWebサイトや電話で事前に確認してみてください。