住宅の定期借家契約には、契約更新がないということのほかに、もう一つ大きな特徴があります。それは契約期間中の中途解約が制限されているという点です。
定期借家契約の中途解約制限
借家契約の中途解約とは、まだ契約期間が終わっていないのに、貸主または借り主が契約を途中で終わらせるよう他方に申し入れ、これに基づいて契約を合意解除することを言います。
家賃滞納などの債務不履行があったことを理由とする一方的な契約解除とは異なります。
住宅の定期借家契約では中途解約は条件付き
定期借家契約では、特約のない限り、貸主、借り主いずれの側からも契約期間中の中途解約は基本的にはできないことになっています。
ただし、床面積200平方m未満の住宅については、借り主を保護するために、借地借家法38条5項で一定の例外が定められています。
中途解約の例外は転勤、療養、親族の介護など
同条項によると、住宅の定期借家契約の場合、借り主が転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、借りている住宅を自分の生活の本拠として使用するのが困難になった場合には、契約期間の途中であっても解約を申し入れることができます。
その場合、申し入れから1カ月後に契約は終了します。
たとえば、契約期間を2019年4月から2021年3月までの2年間として住宅の定期借家契約を結んでいて、2020年7月に借り主が勤務先から転勤の辞令を受けたとします。
この場合、借り主が貸主に中途解約の申し入れを7月末にすれば、1カ月後の8月末で契約は終了することになります。
この規定に反する特約があったとしても、借り主にとって不利なものであれば無効となります(同法38条6項)。
逆に借り主にとって有利な特約、たとえば、借り主は契約期間中いつでも無条件で中途解約ができるといった特約であれば、有効となります。
「やむを得ない事情」の範囲は?
では、定期借家契約で借り主からの中途解約が認められるための「やむを得ない事情」とはどういうものでしょうか。
法律の条文では「転勤、療養、親族の介護その他」と例示されています。
「その他」については、契約を結んだ時点では予測できなかった事情と解されていますが、具体的にどのようなものが含まれるかについては、まだ確立した判例もなく、明確になっていません。
たとえば勤務先が倒産して家賃が支払えなくなったような場合であれば、当然「やむを得ない事情」として中途解約が認められるでしょうが、新築マンションを購入したというような場合に、これが中途解約の理由として認められるかどうかは見方が分かれています。
普通借家契約の中途解約との違いは
実は法律上は、普通借家契約でも定期借家契約でも、原則として特約のない限り中途解約ができないという点では同じです。
例外として、定期借家契約のうち床面積200平方m未満の住宅の借家契約については、借地借家法により、借り主にやむを得ない事情があった場合に限り中途解約が認められています。
この点から、法律上から比較する限りは、普通借家契約より定期借家契約の方が、一定の条件下での中途解約権を認めている点で、借り主の保護に手厚いということになります。
ところが実際には、普通借家契約では、特約で借り主側からの中途解約を認めているのが通例となっています。
契約書に特約として「借り主は契約期間中であっても、貸主に対し、解約日の1カ月前までに通知することにより、本契約を解約することができる」といった文言が入っているのです。
事前通知の時期については、契約書によって1カ月前だったり3カ月前だったりとさまざまですが、この特約条項があることにより、借り主は理由のいかんを問わず途中解約ができるわけです。
一方で、定期借家契約では、契約書にこのような特約がない場合が多く、法律の規定に基づき、借り主からの中途解約は「やむを得ない事情」がある場合にしか認められません。
このため実質的には、普通借家契約では借り主は契約期間中に自由に中途解約できる一方、定期借家契約では中途解約に一定の制約が課されているという違いがあります。
貸主からの中途解約は厳しく制限
なお、賃貸住宅の貸主、つまり家主の側からの契約期間中の中途解約は、定期借家契約、普通借家契約を問わず、法律で厳しく制限されています。
これは立場の弱い入居者を保護するためです。
まず、賃貸人による建物賃貸借の解約の申し入れは、正当事由がない限りできません(借地借家法28条)。
この正当事由となるための要件はかなり厳しく、たとえば建物が倒壊しかかっていて住人が危険といったようなよほどの理由でなければ正当事由にはなりません。
更地にして売却したいとか新築マンションに建て替えたいというような家主の都合だけでは認められないのです。
借り主は解約の申し入れを受けても半年は退去が猶予
また、正当事由があったとしても、賃貸人からの解約の申し入れがあった場合には、建物の賃貸借契約は、申し入れの日から6カ月後に終了することとされています(同法27条)。
借り主は中途解約の申し入れを受けても半年間は住み続けることができるわけです。
これらの規定は強行規定とされており、契約書にこれに反する特約があっても無効となります。
たとえば、転勤になった人が持ち家を3年間の定期借家契約で人に貸し、2年たった時点で急に帰任が決まったとしても、貸主であるこの人は中途解約による立ち退きを借り主に申し入れることはできません。
契約期間の残り1年間は他に家を探して住むしかないのです。