老後を見据えて住み替え、引っ越しをするには、どんな費用がどれぐらいかかるのでしょうか。また、その費用を捻出するにはどうすればいいのでしょうか。
老後の蓄えはいくら必要?
老後を見据えた住み替えに当たっては、まず住み替え後の生活にどれだけの蓄えが必要になるかを把握しておく必要があります。
定年後、夫婦が30年間暮らすには最低でも2,000万円必要
2019年6月に金融庁の審議会が、老後の生活には公的年金だけでは足りず、生活費が30年間で2000万円不足するとの報告書をまとめました。麻生財務相兼金融担当相が報告書の受け取りを拒否したこともあって国会で問題になるなど、波紋を呼んでいます。
しかし、こうした実情は、厚生労働省の家計調査報告によっても裏付けられているのです。
2017年の調査結果によると、高齢夫婦無職世帯の毎月の平均実収入は20万9198円(その大部分の19万1880円は年金などの社会保障給付)で、ここから税金などを除いた可処分所得は18万958円です。
これに対し毎月の平均支出は23万5477円で、差し引き毎月5万4519円が不足することになります。不足額は年間では65万4228円、30年間だと1962万6840円に上ります。
住み替え費用を捻出後、2,000万円残るかどうか?
つまり、仕事からリタイアした夫婦世帯が30年間暮らすには、最低でも約2000万円の蓄えが必要になるのです。それもいまの年金給付水準が維持されると仮定してのことです。セカンドライフを見据えて住み替えを計画するに当たっては、その初期費用を支出した後に2000万円以上の資産が残っていることが前提になります。
分譲マンションに住み替える場合
マンションを購入して住み替える場合には、初期費用としてマンションの購入費用のほか、契約時に不動産取得税や登録免許税などの税金、さらに引っ越しの費用がかかります。
また、引っ越し後の毎月の固定費として、マンションの管理費・修繕積立金、毎年の税金として固定資産税・都市計画税の支出が必要となります。
引越し時に必要
- 初期費用
- マンション購入費
- 不動産取得税、登録免許税
- 引越し費用
引越し後に必要
- マンション管理費・修繕積立金
- 固定資産税・都市計画税
有料老人ホーム、サ高住の場合
有料老人ホーム
一般の賃貸マンションの場合は、定職のない高齢者の場合は審査に通りにくい恐れもあります。
一方、有料老人ホームに入居するに当たっては、施設により差はありますが、初期費用として高いところで数千万円単位の入居申込金や入居一時金がかかります。また、毎月の固定費として家賃や管理費、食費のほか、自立サポート費などの支出も必要となり、費用負担は月々数十万円単位となります。
引越し時に必要
- 数円万円単位の入居申し込み金、入居一時金
- 引越し費用
引越し後に必要
- 家賃
- 管理費
- 食費
- 自立サポート費
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
そこで、まだ自立した生活のできる高齢者の方であれば、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの高齢者向け賃貸物件に入居するという選択肢もあります。
サ高住は、バリアフリー化され、スタッフによる安否確認などのサービスの付いた、法律に基づく登録制の高齢者向け賃貸住宅で、「一般型」と「介護型」があり、「一般型」であれば60歳以上の方なら誰でも入居できます。
東京の高島平団地のように、一般の集合住宅の空き住戸を改修してサ高住として運用している分散型のサ高住もあり、これなら子育て世帯などさまざまな世代の人々とともに地域社会に溶け込んだ生活を送ることができます。
サ高住の「一般型」であれば、敷金などの初期費用は周辺の家賃相場並みで、月額費用はサービス付きな分だけ少し割高になる程度なので、年金でも十分賄えそうです。
自宅売却は転居から3年以内に
住み替えの費用はどのように捻出すればいいのでしょうか。郊外の一戸建てなどからコンパクトなマンションなどに引っ越す場合、購入資金をそれまで住んでいた家の売却で賄えればいうことはありません。
自宅を売却する場合には、3000万円までの所得税の特別控除が認められています。それまで住んでいた家屋を譲渡するか、家屋とともにその敷地や借地権を譲渡した場合には、譲渡所得から最高3000万円を差し引いて税額の計算をすることができるのです。
ただし、この特例が適用されるのは、それまでの自宅に居住しなくなった日から3年目の年の年末までという制限があります。新居の購入資金に余裕があるのであれば、旧居をあわてて売り急ぐ必要はないものの、税金対策上は3年以内に売却する必要があるのです。
一方、それまで住んでいた自宅を改修したりアパートを建てるなどして賃貸に出す方法もあります。これなら、働けなくなってからも毎月一定の家賃収入が入ってくるというメリットがあります。
自宅に住み続けるならリバースモーゲージも
自宅を2世帯住宅などに建て替えたり、バリアフリーに改修して住み続けるような場合には、リバースモーゲージを活用する方法もあります。
リバースモーゲージとは、住んでいる自宅を担保として、金融機関や自治体などから毎月一定額を生活資金として借り入れ、死亡時に自宅の売却で借入金を一括精算するという仕組みのことです。
リバースモーゲージを使えば、年金で足りない分の生活費をこれによって賄うことができます。その代わり子孫に不動産は残せませんが、将来、子どもが今の家を引き継いで住む見通しがないようであれば、相続税の負担も考えて、こうした方法も一考の余地があります。ただ、不動産価値の低い郊外の家などでは、リバースモーゲージが使えない場合もありますので、まずは自宅が対象となるかどうか調べてみるといいでしょう。