原状回復はどこまでするべき?賃貸物件の退去時における敷金精算のポイント
今回は賃貸物件からの引っ越しを考える時に、真っ先に気になる敷金の返金について解説します。
マンションなどの賃貸物件から引越しした場合、退去後に敷金の精算(返還)が行われます。賃貸住宅の敷金、原状回復に関する問題はトラブルの原因にもなっており、消費者問題に関する調査研究、苦情処理などを行う独立行政法人「国民生活センター」には、年間で1万件を超える(2019年度で10,956件)の相談が寄せられています。
その相談内容は、例えば次のようなものです。
・十数年住んだ賃貸アパートを退去したが、大家からの原状回復費用請求が高額である。国交省の原状回復ガイドラインを調べて反論したが、大家は取り合わない。どうしたらよいか。
・賃貸マンションを解約したら、ペット特約を根拠に原状回復費用を過剰に請求された。納得できない。
・5年間居住した賃貸アパートを退去したら、管理会社からクリーニング代や修繕費を請求された。高額で納得できない。
・賃貸アパートの退去時に敷金を半額返金すると聞いていたが、清掃費が追加されて返金されないという通知書が届いた。敷金を返金してほしい。
・10年以上居住したペット可の賃貸マンションを退去後、高額な原状回復費用を請求された。支払わなければならないか。
http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/chintai.html
交渉相手の家主や管理会社も人である以上、ある程度のもめ事が発生する可能性があるのは仕方がないことではありますが、そこをなるべく穏便に事を進め、なおかつなるべく多額の敷金が戻ってくるように交渉するにはどうすればいいか、考えてみましょう。
敷金は本来全額返金されるもの?
そもそも「敷金」は賃貸住宅の入居時に貸し主に預けるお金で、賃料(家賃)の1~3カ月分程度の金額が一般的です。入居時、同様に支払う「礼金」は戻ってきませんが、敷金は家賃不払いなどのリスクに対する保証金であり、原則として退去時には全額が返金されるべきものです。
ところが、原状回復のための費用として相殺されて金額が減らされたり、中には追加で修繕費用を請求されたりといったケースまであるのが実情で、長らくトラブルに発展しやすい状況が続いていました。
こうした事態を受けて2020年4月1日、敷金の取り扱いなどに関連して、民法の一部を改正する法律が施行されたことをご存知の方は、あまり多くないかもしれません。
実は民法のうち賃貸契約を含む債権(お金を受け取る権利等)関係の規定は、1896年(明治29年)以降、約120年間ぶりの改正となります。
新しい民法では、賃貸借契約においてトラブルの原因になりがちだった敷金について、あくまで借主の債務不履行(賃料の滞納など)があった際に、その弁済に充てるためのものであり、原則としてそれ以外の用途に用いてはいけない、ということを明確に定義しました。
622条の2「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」
民法(電子政府の総合窓口 e-Gov )
さらに、敷金の返還時期と返還の範囲についても明記されています。
・敷金の返還時期
賃貸借が終了して賃貸物の返還がされた時点
・返還の範囲
受領した敷金の額からそれまでに生じた金銭債務の額を控除した残額
これにより賃貸契約終了の際、貸主は敷金から賃料の滞納などの額を差し引いた額を、「法に基づいて」借主に返還しなければならなくなったわけです。
「原状回復」について理解を深めよう
一方で賃貸住宅の入居者にはご存知の通り原状回復が義務づけられおり、ほとんどの賃貸契約においては、原状回復に要する費用と敷金を相殺することが明記されています。つまり原状回復の費用によって、返還される敷金の額も変わってきます。
改正前の民法ではどこまでが「原状回復」の範囲なのか明確ではなく、トラブルの一因になっていましたが、この点についても新しい民法では、通常損耗(通常の使用によって生じた汚れや変色)や経年変化について、借り主に原状回復の義務はないことが明文化されました。(改正民法621条)
そしてここで登場するのが、国土交通省の定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。その中では、通常損耗や経年変化の捉え方について、一定の基準が設けられています。
以下、いくつかの具体例を挙げておきます。
【通常損耗・経年変化に当たる例】
・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
・テレビ、冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
・地震で破損したガラス
・鍵の取り替え(破損、鍵紛失のない場合)
【通常損耗・経年変化に当たらない例】
・引っ越し作業で生じたひっかきキズ
・タバコのヤニ・臭い
・飼育ペットによる柱などのキズ・臭い
・日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備などの毀損
つまり、「家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡」については原状回復義務はない、ということを意味します。退去時の交渉にあたっては、どこまで原状回復をしなければいけないかを、しっかりと把握しておきましょう。
公的なガイドラインなどを確認する
トラブルが多い敷金返還の問題に関しては、上記の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」も含めて、公的なガイドラインがさまざまに公表されています。退去時、敷金の精算書などにサインする前に、一度目を通しておくのをおすすめします。
参考にすべきガイドラインとしては、以下のようなものがあります。
『賃貸住宅の原状回復トラブルを防止するために』(大阪府住宅まちづくり部)
加えてさらに時間が許すようであれば、民法の賃貸に関する条項も確認しておくとよいかもしれません(第六百二十一条、第六百二十二条など)。
敷金精算書などはきちんと説明を求める
最後に原状回復費用の過剰請求などを防ぐためのアドバイスとして、退去時の立ち会いの際などに提示される敷金精算書などの請求内容は、きちんと精査して、疑問点などがあればしっかりと説明を求めることが大切です。
貸し主側は、先に挙げたガイドラインなどの存在も把握しているはずです。不当に高額な請求がなされる場合、借り主側の無知を当て込んでいるケースが多いでしょうから、対等に交渉するためにも、事前にガイドラインの知識を頭に入れておくことはやはり大切です。
また、高額な請求の根拠として、賃貸契約の「特約」を根拠にされることがありますが、貸し主が一方的に有利な特約は必ずしも有効ではありません。
いずれにしても、借りている側が物件をきれいにして返すのはマナーでもあります。事前にガイドラインに基づいた「常識」を把握しておいて、納得できる落としどころを想定して交渉するのがいいでしょう。
どうしても納得できない事態になりそうなケースでは、『敷金精算でどうしても納得できない場合』を参考にしてください。
敷金と併せて、引っ越し費用も抑えよう
このように、ガイドラインを把握したり、請求内容を調べたりといったひと手間をかけることによって、敷金の返金率を高めることが可能です。
一方で引っ越しにおける全体収支について考えると、やはり引っ越し業者に払う引っ越し料金がどうしても大きくなりがち。これを抑えるためにも、弊社が運営する一括見積もりサービス「引越しラクっとNAVI」のご利用はいかがでしょうか?
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増加傾向の「敷金ゼロ物件」も狙い目!
さて、ここまで敷金について見てきましたが、実はその敷金が発生しない物件が増えているということも、注目するべきポイントです。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が2019年10~12月に調査した「第22回 賃貸住宅市場景況感調査」によれば、全国で約4割の不動産管理会社が 敷金(保証金)なし物件が前年に比べて増えている、と回答しています。
一説には上記の法改正が関連しているとも言われていますが、いずれにしてもこれから引っ越しを検討されているされる方は、こうした物件を狙うのも一つの手です。
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