敷金精算のポイント
マンションなどの賃貸物件から引越しした場合、退去後に敷金の精算(返還)が行われます。賃貸住宅の敷金、原状回復に関する問題は、国民生活センターにも年間で1万件を超える(2013年度で1万3920件)相談が寄せられています。
そもそも「敷金」は賃貸住宅の入居時に貸し主に預けるお金で、賃料(家賃)の1~3カ月分程度の金額が一般的です。入居時、同様に支払う「礼金」は戻ってきませんが、敷金は家賃不払いなどのリスクに対する保証金であり、原則として退去時には全額が返金されるべきものです。
ところが、原状回復のための費用として相殺されて金額が減らされたり、中には追加で修繕費用を請求されたりといったケースまであるのが実情で、トラブルに発展しやすい問題になっています。
明確に入居者の責任で発生してしまう修繕費用であればやむを得ませんが、入居者の無知につけ込んで、敷金の返金額を減らそうとする貸し主がいるのも現実です。できるだけ泣き寝入りしてしまうことがないよう、いくつかのポイントを紹介しておきましょう。
◆経年劣化は貸し主が負担する
賃貸住宅の入居者には「原状回復」が義務づけられています。でも、それは入居した時のまっさらな状態に戻すということではありません。通常の生活をしていて生じるちょっとした傷や汚れなどは貸し主が負担する、つまり敷金から相殺されることはないのが原則です。
以下、いくつかの具体例を挙げておきます。
【壁】
<貸し主が負担>
日照などによるクロスの変色
下地の張り替えまでは必要がない画鋲の穴など
<借り主が負担>
モノをぶつけて空いた壁の穴など
子どもがひどく落書きした壁紙や結露を放置してできたひどいシミなど
【床】
<貸し主が負担>
家具や家電を設置した跡やカーペットのへこみなど
フローリングのワックスかけや畳の表替えなど
<借り主が負担>
こぼれた水などを放置したことによるフローリングの色落ちやシミなど
引越し作業などで付けてしまった傷など
【鍵】
<貸し主が負担>
入居者が替わることに伴う鍵の交換
<借り主が負担>
不適切な使用による破損や、紛失による取り替え
◆公的なガイドラインなどを確認する
トラブルが多い敷金返還の問題に関しては、公的なガイドラインもさまざまに公表されています。退去時、敷金の精算書などにサインする前に、一度目を通しておくのをおすすめします。
参考にすべきガイドラインとしては、以下のようなものがあります。
『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』(国土交通省)
『賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』(東京都都市整備局)
『賃貸住宅の原状回復トラブルを防止するために』(大阪府住宅まちづくり部)
◆敷金精算書などはきちんと説明を求める
退去時の立ち会いの際などに提示される敷金精算書などの請求内容は、きちんと精査して、疑問点などがあればしっかりと説明を求めることが大切です。
貸し主側は、先に挙げたガイドラインなどの存在も把握しているはずです。不当に高額な請求がなされる場合、借り主側の無知を当て込んでいるケースが多いでしょうから、対等に交渉するためにも、事前にガイドラインの知識を頭に入れておくことはやはり大切です。
また、高額な請求の根拠として、賃貸契約の「特約」を根拠にされることがありますが、貸し主が一方的に有利な特約は必ずしも有効ではありません。
いずれにしても、借りている側が物件をきれいにして返すのはマナーでもあります。事前にガイドラインに基づいた「常識」を把握しておいて、納得できる落としどころを想定して交渉するのがいいでしょう。
どうしても納得できない事態になりそうなケースでは、『敷金精算でどうしても納得できない場合』を参考にしてください。